DEIが止まっているように見えるのは、「判断のしかた」が変わっていないからかもしれない

DEI(ダイバーシティ&インクルージョン)を象徴する3D文字「DIVERSITY」。組織の意思決定とアンコンシャスバイアスを扱う記事のアイキャッチ

多様性は「人数」だけでなく、意思決定の中で育っていく

多様性は、人数を増やせば自動的に生まれるものではない。
私はそう感じるようになりました。

これまで、さまざまな経営の現場でダイバーシティ推進に関わる中で、最近とくに増えている相談があります。

「DEIには取り組んでいるつもりなのですが、
組織の判断や空気が、あまり変わった感じがしなくて……」

制度も施策も整えた。
数値目標も置いた。
それでも“手触り”が変わらない。

この違和感は、努力が足りないという話ではなく、私たちがどこに目を向けてきたかに関係しているのではないか。
そんな問題意識から、この記事を書いています。


1. 40年を経て、DEIは次の問いに入っているのではないか

日本では、男女雇用機会均等法の制定から約40年が経ちました。
制度や環境は確実に前進し、多くの企業がダイバーシティに真剣に向き合ってきたと思います。

一方で、現場を見ていると、いまは次のフェーズへの踊り場に来ているようにも感じます。
「やるべきことは一通りやった」。
だからこそ、次に浮かび上がってくる問いは――

なぜ、組織の意思決定は変わりきらないのだろうか。


2. 多様性は「人数」ではなく、「判断の中」で決まるのではないか

多くの企業では、多様性を次のように捉えてきました。

  • 属性やバックグラウンドの幅を広げる
  • 構成比を改善する
  • 誰もが参加できる環境を整える

これらはとても大切です。
ただ、私自身の経験では、それだけで組織が大きく変わるケースは多くありませんでした。

理由の一つは、組織を実際に動かしているのが「意思決定」だからではないかと思います。

少し見方を変えると、こんな整理ができるかもしれません。

多様性とは、
多様な人がいる状態というより、
多様な情報・視点・仮説が、意思決定にどう使われているかで決まるのではないか。

採用、評価、配置、投資、撤退。
どの場面でも、「どんな情報が判断材料として扱われたか」が、実質的な多様性を形づくっているように感じます。


3. なぜ、多様な情報が意思決定に入りにくいのか

では、なぜ多様な人がいても、多様な情報が意思決定に入りきらないのでしょうか。

私が現場で感じるのは、これは特定の個人の問題ではなく、構造的として起きている現象だということです。

経営は、最終的に「決める人」です。
だからこそ、現場は無意識のうちに、こんなふうに考えるようになります。

  • 上は、どの選択肢を望みそうか
  • どの説明が、判断しやすいだろうか
  • どこまで言えば、話が前に進むだろうか

その結果、経営に届く前の段階で、情報が少しずつ整えられていく
反対仮説や違和感は丸められ、「判断しやすい選択肢」だけが残る。

こうして、経営は――
すでに狭まった選択肢の中で、最善を選ぶことになる

私はこの構図を、さまざまな経営の現場で繰り返し見てきました。


4. 踊り場は「目的のズレ」ではなく「届き方のズレ」ではないか

多くの企業で、DEIの目的は「意思決定の質を高め、組織の成果につなげること」だと思います。
その目的に向けて、女性比率の改善や、研修・啓発など、さまざまな施策が積み重ねられてきました。

一方で、現場を見ていると、制度や数値が整っても、肝心の意思決定の場面に“多様な情報”が入りきらないと感じることがあります。
このギャップこそが、いま多くの企業が感じている踊り場感につながっているのではないでしょうか。


5. 選択肢が狭まる“原因”は、無意識の情報圧縮にある

では、なぜ選択肢は“手前で”狭まっていくのでしょうか。

ここで関係しているのが、アンコンシャスバイアス(無意識の偏り)だと考えています。

忖度は、「誰かが悪い」から起きるものではありません。
忙しい現場ほど、人は判断を速くするために、無意識のうちに

  • 情報を省略し
  • 分かりやすいストーリーにまとめ
  • 上が受け取りやすい筋へと寄せてしまう

こうした無意識の情報圧縮が積み重なって起きます。

つまり、経営の入力が狭まる現象の正体は、個人の問題というより、
無意識の情報処理が組織の中で連鎖している状態なのだと思います。


6. チェックリストだけでは、なぜ変わりにくいのか

多くの企業では、バイアス対策としてチェックリストや研修を導入しています。

  • 第一印象で判断していないか
  • 自分と似た人を高く評価していないか
  • 曖昧な言葉で評価していないか

こうした取り組みには、もちろん意味があります。
ただ、現場ではこんな声も耳にします。

「分かってはいるのですが、
実際の判断では、いつも通りになってしまう」

チェックリストは、立ち止まって考えるための仕組みです。
一方で、バイアスは、判断の瞬間に自然に働く思考のクセでもあります。

そのため、「注意する」だけでは間に合わない場面が多い。
私自身は、だからこそ判断の前に立ち止まれる“設計”が必要なのではないかと考えています。


7. 多様性は、意思決定の質の中で育っていく

ここまでの話をまとめると、私がこのコラムでお伝えしたいのは、次の点です。

多様性は、人の属性だけで測れるものではなく、
意思決定の中で、どれだけ多様な情報が扱われているかによって育っていく。

人数、制度、啓発。
それらが無意味なのではなく、それらが意思決定にどう接続されているかが問われている。
いまは、そういう段階に来ているのではないでしょうか。


連載予告|多様性を意思決定に「入れる」ために

この連載では、理念やスローガンではなく、実際の意思決定の場面で何が起きているのかを具体的に見ていきます。

  • 第2回|採用面接:第一印象と判断をどう切り分けるか
  • 第3回|評価・昇格:「◯◯っぽい」はどこから来るのか
  • 第4回|配置・アサイン:「向いていない」を条件に翻訳する
  • 第5回|会議:意見が偏らずに残る場のつくり方
  • 第6回|KPIとガバナンス:数値目標と意思決定をどう接続するか

SheSTEMについて(参考)

本記事で触れたアンコンシャスバイアスの考え方は、大人になってから突然生まれるものではなく、
子どもの頃の経験や、家庭・学校・社会からのメッセージの積み重ねによって形成されていきます。

SheSTEMは、ダイバーシティを「女性活躍」だけでなくガールズ視点で捉え直し、
日本の理系人材不足という社会課題とも接続しながら、子どもと保護者に向けて「無意識の思い込み」や「考え方のクセ」を扱っている教育プロジェクトです。

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