新卒採用のバイアスは、採用プロセス全体で減らす|人材判断を個人の意識だけに頼らない

採用のあらゆる段階でバイアスが影響し得ることを前提に、判断のプロセスを設計する
人が人を判断し、採用する以上、判断に対するバイアスの影響を完全にゼロにすることはできません。
それでも、その影響をできる限り小さくする必要があります。
なぜなら、採用で本来見たいのは、その人の性別や年齢、話し方の印象、自分たちと似ているかどうかではなく、 その仕事に必要な能力や経験があるか、その役割を担える可能性があるかだからです。
判断にバイアスの影響が強く入ると、本来の職務とは直接関係のない情報や思い込みが、採否を左右することがあります。
その結果、候補者は本来得られたかもしれない機会を失い、企業もまた、本来採用すべき人を見落とす可能性があります。
採用におけるバイアス対策は、単に「公平にしましょう」という話ではありません。
その仕事に必要な能力や経験、可能性を、できるだけ正確に見て判断するための取り組みです。
そして、そのために必要なのは、面接官一人ひとりに「バイアスに気をつける」ことを求めるだけではありません。
採用には、最初から最後まで、いくつもの判断があります。
- 募集する仕事に、何が必要かを決める
- どのような人を対象にし、どこに募集情報を届けるかを決める
- 応募書類の何を見るかを決める
- 誰を次の選考に進めるかを判断する
- 面接で何を質問し、何を確認するかを決める
- 候補者を評価する
- 複数の候補者を比較し、採用する人を決める
このすべての段階で、バイアスは判断に影響する可能性があります。
だからこそ、採用のどこで、誰が、何を根拠に判断するのか。
その判断を、どこで確認し、問い直せるようにするのか。
バイアスが影響し得ることを前提に、採用プロセス全体を設計することが重要です。
1. バイアスの影響は、面接だけで始まるわけではない
採用のバイアスというと、面接官の好き嫌いや、面接中の印象評価が注目されがちです。
しかし、人についての判断は、面接より前から始まっています。
たとえば、募集要件を決める段階で、
「この仕事には、この経験が必要だ」
と考えたとします。
本当にその経験がなければ、その仕事はできないのでしょうか。
それとも、これまでその仕事を担当してきた人が、たまたま同じような経歴を持っていただけなのでしょうか。
ここにも、過去の経験からつくられた前提が入り込む可能性があります。
書類選考では、学歴、前職の会社名、転職回数、ブランクなど、本来の職務遂行能力とは直接関係しない情報が、候補者を見る目に影響することがあります。
面接でも、候補者によって質問の内容や確認の深さが変われば、そもそも比較するために集めている情報が同じではありません。
採用会議でも、「積極的だった」「少し頼りない」「うちに合いそう」といった印象が、具体的な事実より強く残ることがあります。
つまり、採用におけるバイアスの影響を減らすには、 募集要件の設定から、母集団形成、書類選考、面接、評価、比較、最終判断まで、採用プロセス全体を見る必要があります。
2. まず、「何を見て判断するのか」を決める
採用判断の出発点は、その仕事に本当に必要なものを明確にすることです。
候補者を見てから、
- 「やはり経験が豊富な方がいい」
- 「今回はコミュニケーション力を重視したい」
- 「この人なら専門性を優先してもいい」
と基準が変われば、候補者によって異なる物差しを使うことになります。
重要な採用では、候補者を見る前に、少なくとも次のことをできるだけ明確にしておく必要があります。
- この仕事に本当に必要な能力や経験は何か
- 何を特に重視するのか
- どのような事実が確認できれば、その要件を満たしていると判断するのか
- 今回の採用では、判断材料にしないものは何か
たとえば、「リーダーシップがある人」という表現だけでは、人によってイメージが違います。
自分から発言する人なのか。
周囲を巻き込める人なのか。
問題が起きたときに立て直せる人なのか。
抽象的な評価語のままでは、評価する人それぞれの「リーダー像」が判断に入り込みます。
だからこそ、何を見るのかを、具体的な行動や事実に置き換えておくことが必要です。
3. 判断したいことに対応する情報を、採用プロセスの中で集める
基準を決めたら、次に必要なのは、その基準について判断できる情報を集めることです。
ここで重要なのは、選考方法を増やすことではありません。
見たい能力や経験に対応した事実を、採用プロセスの中でどう確認するかです。
たとえば、協働する力を見たいのであれば、短時間の面接で「チームワークを大切にしていますか」と聞くだけでは、十分な判断材料にはなりません。
実際に他者と協働した経験について、
- 何が起きたのか
- 本人は何をしたのか
- 意見が対立したときに、どう対応したのか
まで確認する方が、具体的な判断材料になります。
仕事の進め方や思考の組み立て方を見たいのであれば、ワークサンプルやケース課題を使う方法もあります。
重要なのは、評価したいことと、実際に集めている情報がつながっているかです。
採用プロセスの各段階で集めた情報が、本当に職務に必要な能力や経験、可能性を判断する材料になっているのかを確認する必要があります。
4. 「事実」と「解釈」を分けて残す
採用で集めた情報も、残し方によっては再び印象に戻ってしまいます。
たとえば、
- 「主体性がある」
- 「コミュニケーション力が高い」
- 「頼りない印象だった」
という言葉は、すでに評価者による解釈です。
一方、
課題を見つけ、自分から関係者に確認したうえで改善案を提案した。
という記録であれば、何が起きたのかを他の人も確認できます。
重要なのは、何を見たのかという事実と、それをどう評価したのかという解釈を分けることです。
判断の理由を後から検討するには、「高く評価した」「懸念がある」という結論だけでは足りません。
何を見て、なぜそう考えたのかが残っている必要があります。
5. 「なぜそう判断したのか」を言葉にし、問い直す
判断材料や基準を整えても、最後に判断するのは人です。
そして私たちは、すべての判断について、なぜそう考えたのかを完全に自覚しているわけではありません。
これまでの経験や学習、繰り返し見聞きしてきた情報、社会的なイメージなどが、気づかないうちに判断に影響することがあります。
だから、重要な人材判断では、一度出した判断をそのまま結論にせず、検討の対象にします。
「なぜ、その人を高く評価したのか」
「その判断は、どの事実に基づいているのか」
「確認した事実ではなく、推測していることはないか」
「他の候補者にも、同じ基準を使っているか」
「別の見方をすると、どう見えるか」
これは、一度出した判断が間違っていると決めつけるためではありません。
自分たちが何を根拠に判断しているのかを明確にし、本来見るべき能力や経験、可能性以外のものに判断が左右されていないかを確認するためです。
6. 一人の判断だけで、候補者の機会を決めない
採用は、企業にとって重要な意思決定であると同時に、候補者にとっては一つの機会が与えられるかどうかを左右する判断です。
だからこそ、重要な人材判断を、一人の評価者だけに委ねないことも必要です。
ただし、単に面接官の人数を増やせばよいわけではありません。
複数の人が、
- 同じ基準を使っているか
- それぞれ何を事実として見たのか
- なぜそう評価したのか
を確認できることが重要です。
異なる意見が出たときも、多数決だけで終わらせず、なぜ判断が分かれたのかを確認することで、評価基準の曖昧さや、無自覚に置いていた前提が見えてくることがあります。
7. AIを採用に使うなら、その出力も検証の対象にする
採用では、応募情報の整理、面接記録の要約、評価コメントの整理、選考データの分析など、AIを活用できる場面が増えています。
情報量が多い採用プロセスでは、AIを使うことで、人が判断材料を整理し、比較や確認をしやすくなる可能性があります。
一方で、AIを使えば、バイアスの問題が自動的に解決するわけではありません。
AIが参照するデータに過去の判断の偏りが含まれていれば、その傾向が出力に反映される可能性があります。
また、
- どのデータを使うのか
- 何を評価対象とするのか
- 何を予測させるのか
- どの結果を望ましいものとするのか
というAIの設計にも、人や組織の判断が入ります。
採用アルゴリズムについて検討したRaghavanらの研究でも、データ収集や予測対象の設定など、アルゴリズムを構築・運用する際の選択にリスクやトレードオフがあることが論じられています。
また、米国国立標準技術研究所(NIST)は、AIのバイアスを、データやアルゴリズムだけの問題ではなく、人の判断や、組織・社会に存在する構造も含めて捉える必要があると整理しています。
そのため、AIを採用プロセスに組み込む場合も、
- 何のためにAIを使っているのかを明確にする
- どのデータを使い、何を基準に出力しているのかを確認する
- 特定の属性や候補者に不利な傾向が生じていないかを検証する
- AIの出力だけを根拠に判断しない
- 導入後も、実際の結果を継続的に確認する
人の判断だけでなく、AIが示した結果も、そのまま正しいものとして扱わず、確認し、問い直せる対象にする。
それも、バイアスが入り得ることを前提に、採用プロセスを設計するという考え方の一部です。
AIとバイアスについて、さらに知る
採用アルゴリズムに関する研究
Raghavan, M., Barocas, S., Kleinberg, J., & Levy, K. (2020)
Mitigating Bias in Algorithmic Hiring: Evaluating Claims and Practices
▶ 論文を見る
AIバイアスに関するNISTの解説
Towards a Standard for Identifying and Managing Bias in Artificial Intelligence
▶ NISTの解説を見る
TED|アルゴリズムのバイアスを考える
Joy Buolamwini「How I'm fighting bias in algorithms」
▶ TEDを見る
8. 採用プロセス全体に、「問い直せる仕組み」を入れる
採用には、一つの判断だけがあるわけではありません。
募集要件を決めるところから、候補者との接点、書類選考、面接、評価、比較、最終決定まで、判断が連続しています。
だから、最後の面接官だけに「バイアスに気をつけてください」と求めても、採用プロセス全体は変わりません。
必要なのは、
- どの段階で、何を基準に判断するのか
- その判断に必要な事実を、どう集めるのか
- 何を見てそう判断したのかを、どう残すのか
- 判断の理由を、誰がどこで確認するのか
- 異なる視点から問い直す機会を、どこに入れるのか
を、採用プロセスとして設計することです。
人が人を判断する以上、バイアスの影響を完全にゼロにすることはできません。
だからといって、その影響を放置してよいわけではありません。
バイアスによって、本来見るべき能力や経験、可能性が見えなくなれば、候補者の機会を狭めるだけでなく、企業自身も必要な人材を見落とします。
バイアスの影響をできる限り小さくし、
その仕事に必要な能力や経験、可能性を、より正確に見て判断できるようにする。
そのために、人の意識だけに頼るのではなく、判断を確認し、問い直せる仕組みを採用プロセス全体に組み込む。
それが、MUSE Worksが考える人材判断の設計です。


